• TOP
  • ブログ
  • 【楽団員インタビュー】バストロンボーン奏者:森川 元気

BLOG

ブログ

【楽団員インタビュー】バストロンボーン奏者:森川 元気

第32回日本管打楽器コンクールで見事1位に選ばれた当団バストロンボーン奏者の森川元気さんにインタビュー!

――日本管打楽器コンクール第1位、おめでとうございます!本選・結果発表からまだ日も浅いですが、今の率直なお気持ちを聞かせてください。

森川:全日程を終え、賞状を受け取りましたが、未だに実感が湧かないというのが正直な気持ちです。まるでドラマや映画を見ていたかのような、どこか他人事のように感じられます。

※2015年8月29日の本選でトロンボーン部門第1位。また、9月3日の特別大賞演奏会では「特別大賞」「内閣総理大臣賞」「文部科学大臣賞」「東京都知事賞」を受賞。

――コンクール期間は大変な緊張を強いられる事と思いますが、24日の第一次予選開始から29日の本選までの5日間はどのように過ごされたのでしょうか。

森川:このコンクールは非常に短い期間の中で、1次から本選まで行われますので、気持ちの切り替えがとても大変でした。昼間に演奏をしたら、そのまま家に帰って日付が変わるまで翌日の曲を練習する。その繰り返しです。
しかし、夜に結果が発表されるまでは自分が予選通過しているかどうかわかりませんから、もし駄目だったら練習する意味も無いし……という不安の中で、自分を信じて練習するしかありませんでした。

――今年のトロンボーン部門はテナー・バス合わせて256名と過去最多の参加者だったそうですね。特にオケマン(オーケストラでの演奏を生業とする人)の受験者が多く、審査委員長を務められた古賀慎治さん(東京藝術大学音楽学部准教授、日本大学藝術学部講師)のブログには「(学生たちに本選まで行って欲しいと頑張ったが)プロの執念には全く及ばないと思いました」と書かれていました。
コンクール会場ではそうしたプロの気迫等は感じられましたでしょうか。また森川さん自身はどのような心境でコンクールに臨まれたのでしょうか。

森川:今回、自分に全く余裕が無かったこともあり、他の人の演奏を聞くことが出来ませんでした。
個人的に、7月末から半月間、アルゼンチンのトロンボナンサという音楽祭に招聘されプロフェッシオール(※)として参加してきました。当初の予定ではその空き時間にコンクールの準備も並行して……と思っていましたが音楽祭がいざ始まってみると、予想以上にハードなスケジュールで全くその余裕がありませんでした。(毎朝9時からウォームアップセッションを始めて、レッスン、リハーサル、コンサートをしパーティーが終わってホテルに帰るのは翌朝の3時4時という生活が続きました)
1次予選の日は帰国してから2週間を切っておりましたから、時差ボケと疲労ととても強い焦りを感じつつ、ピアニストとのリハーサルに臨んでいました。完成度を上げるために練習はしなければならないが、唇のダメージを回復するために休まなければならないという、相反する状況の中、クオリティとコンディションの調整をすることに苦心し、焦燥感の中必死でした。

※プロフェッシオール=profesor(スペイン語)

――本選の結果発表を見ると、すべての審査員が森川さんに1位もしくは2位の点を付けています。審査の結果とご自身の演奏についてどう思われますか?

森川:本選では今の私の全てを発揮しきれた演奏が出来たと思いますのでそれを評価していただけて非常に嬉しいです。しかし、他の方との得点差は僅差で、満場一致の評価では無くまた、どなたからも100点をつけていただくことは出来なかったことを考えるとまだまだ完成度を詰める余地があったのだとも思います。

――選択曲は何を選ばれたのでしょうか。

森川:リッタージョージと迷いましたが、最終的にボザのニューオーリンズを選びました。カステレードは今まで演奏したことが無かったので、初めから選択肢の外でした。初めはどちらの曲も自分の良さが出せると思いましたが、昨年末にリッタージョージを演奏する機会があり、それがあまり上手く行かなかったこと、また、本選のネリベルがかなり技巧的な曲であることを考えると、1次から本選を通して聞いた時にボザの方が自分をよりアピール出来ると考えました。
また、3曲の中で唯一リッタージョージだけが、オケ伴のリダクションということもボザを選んだ理由の一つです。

※リダクション=楽器編成をより小さく書き換えること。この場合はピアノ伴奏のことを指す。

――経歴を教えてください。

森川:12歳の時、中学校の吹奏楽部でトロンボーンを始めました。高校入学と同時に小泉伸先生に師事し、東京音楽大学に入学しました。大学では新田幹男先生に師事し、卒業の3か月前にバストロンボーンに転向しました。以来、昨年夏までフリーランスとして演奏活動を行い、2014年9月より中部フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン奏者として演奏しています。

――普段、どのくらい練習されますか?

森川:練習が大嫌いなので、全くしません(笑)。ただ、コンディションを保つために週に1日は必ず、楽器のケースすら触らない日を作るよう心掛けています。

――小牧市の学生に演奏指導をされていますが「こうした練習をすると良いよ!」という方法があれば教えてください。

森川:↑と相反することを言いますが(笑)、とにかく毎日、6時間でも、10時間でも可能な限り練習して下さい。練習が上達への最も近道です。そして中部フィルの演奏会に可能な限り足を運んでください。目指すべき音と音楽がわからなければ、努力のしようがありません。

――中部フィルへ入団されて変化した事はありますか?

森川:プロプレイヤーとしての自覚と、楽団の看板を背負っている責任を感じるようになりました。また、自分の定席が出来たことで中部フィルのセクションとしてのサウンド、中部フィルのオーケストラとしてのサウンドを作っていく必要性を感じるようになりました。

――今後の目標を教えてください。

森川:今回、ソリストとしては評価してもらえましたが、まだまだ、私はオケマンとしては未熟です。このコンクールの、過去のバストロンボーンでの覇者にはN響の黒金さん、読響の篠崎さんのお二人がいらっしゃいます。近い将来、本当の意味でお二人に比肩するプレイヤーになれるよう、これからも研鑽を積んでいく所存です。


森川 元気(バストロンボーン)

1990年、石川県生まれ。12歳よりトロンボーンを始め、21歳でバストロンボーンに転向する。東京音楽大学音楽学部音楽学科器楽専攻(トロンボーン)卒業。在学中に同大学ソロ・室内楽定期演奏会(ソロ部門)へ、卒業時に第12回北陸新人登竜門コンサート、読売新聞社主催第83回新人演奏会へ出演する。第32回日本管打楽器コンクール(トロンボーン部門)第1位及び特別大賞。併せて内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、東京都知事賞を受賞する。
これまでにオーケストラ・アンサンブル金沢、京都市交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団等のオーケストラとソリストとして共演する他、2014年には府中の森芸術劇場ウィーンホールにて、自身初となるソロリサイタルを開催し、そのいずれにおいても好評を博す。
また近年では、第16回トロンボナンサ国際音楽祭(アルゼンチン・2015年)に招聘され、演奏とマスタークラスを行うなど、オーケストラプレイヤーとしてのみならず国内外でソリスト、クリニシャンとしても活躍する。
現在、特別非営利法人中部フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン奏者、石川トロンボーンファミリーメンバーを務める。トロンボーンを小泉伸氏にトロンボーンとバストロンボーンを新田幹男氏に師事。